ある夜に



「俺たちは男同士なんだ、許されない関係だ・・・だから、絶対にお前を失うわけにはいかないんだ・・・」
 強く拳を握り締めて言うイザークを、ディアッカはそっと抱きしめた。
「今さら何言ってんの、誰を失うって? あんたが見捨てるって言ったってオレはどこまででもついて回るよ、地獄の果てまでだってね」
「ディアッカ・・・」 
 言ってイザークは蒼く潤んだ瞳で自分を覗き込む紫の双眸を見上げた。そこに映るのは間違いなく、ただ一人、自分だけ。甘く微笑むディアッカの表情は、自分の死ぬ気の告白なんてまるで聞いていないかのように、普段と変わらない。けれど、抱きしめる腕の力はいつもよりずっと強く、自分を捉えて離さない。
「愛してる・・・イザーク・・・」 
 耳元でささやく声が低く響いて、イザークの心拍数は否応なく上がっていく。
「ディア・・・」 
 名前を最後まで呼ぶことを許されずに、イザークの唇はディアッカのそれに奪われた。一瞬遅れて銀に震える目蓋が閉じる。
 甘く熱い存在が自分の中に流れ込むような感覚に襲われて、イザークは必死でディアッカにしがみつくようにその体を抱きしめた。
 歯列をなぞるディアッカの舌の動きは、言葉以上に自分にディアッカの想いを伝えてくる。
「っん・・・ふ・・・ぅ・・・」 
 漏れる声は婀娜めいた色に濡れて、自分の鼓膜を酷くいやらしく震わせる。
 絡みつく舌に必死で応じながら、イザークが深く追いすがるとまるでからかう様にその舌は逃げてみせた。そして銀に光る糸を引きながら、褐色の頬が自分から離れていくのをぼーっとした頭でイザークは見ていた。
「いいの?」
「何が、だ」 
 見たこともないディアッカの顔にごくり、と喉を鳴らしてイザークは訊く。
「オレ、もう止まんないよ?」
 それの意味するところを悟ったイザークは、かぁっと自分の体温が上がるのを感じた。
「イザーク?」 
 心配そうに覗き込む瞳にどきり、としながらイザークはまっすぐに見つめ返して告げる。
「いいに決まってるだろ」
 その返事に幸せそうに顔をほころばせると、ディアッカはチュッと額に音を立ててキスをした。
「もう絶対離さないから・・・」 
 言ってぎゅっと抱きしめられながら、イザークはぼそり、と小さな声でもらした。
「それは・・・こっちのセリフだ」
 言われたディアッカは満足そうに微笑むともう一度イザークにキスをした。そしてその体をそっとベッドに押し倒す。
「イザーク、お前・・・が、欲しい・・・」
 切なげな告白に一瞬蒼い目を細めると口の端が上がる。
「ふん、自分だけだと思っているのか?」
 言って睨むイザークにディアッカは小さく苦笑した。
「あぁ、そうだな」
 イザークが自分への想いを認めてくれたから、自分を欲してくれたからいまここに二人はいるんだ、とディアッカは思い出し、そしてその体をぎゅっと抱きしめた。






ある茶会で会話しながら書き落としたものに加筆。


2005/9