April fool

「あ、ディアッカ。みんな食堂にいますよ。来ませんか?」
 午前中の訓練を終えてシャワーを浴びてきたディアッカをその部屋の前で掴まえてニコルはそう言った。
「みんなって、イザークも?」
「ええそうです」
 その答えに一瞬不思議そうな顔をしたディアッカはすぐにその表情を収めると「わかった」と短く答えて部屋に入った。
「シャワー浴び終わるの待ってって言ったのに、イザのやつ」
 がしゃがしゃと髪の毛の水滴をふき取ると適当に整えて上着を羽織るとディアッカは部屋を後にした。

「おい、おっせーぞ、ディアッカ」
 食堂の中央のテーブルで、ぶんぶんと音がしそうな勢いでラスティが手を振っている。ランチを乗せたトレイを片手にディアッカはそこへ向かう・・・と信じられないものが目に入った。
 イザークとアスランが隣同士で座っているのだ。しかも普通に会話をしている。
「・・・何を突っ立って見てるんだ、ディアッカ?」
 呆然とするディアッカをイザークは何事もないように見上げている。
「イザーク?」
 どうかしたのかと思ってディアッカは話しかけるが、反応はきわめて普通だ。
「なんだ?」
 ディアッカの言葉が続かないと見て取るとイザークはすぐに隣のアスランに話しかける。
「さっきのシミュレーションの展開、アスランはどう思うんだ?」
「ああ、あれはイザークのやり方もいいと思ったけど、俺ならぎりぎりまでひきつけてから、味方を逃がしてそのうえで攻撃するかな」
「なるほどな・・・」
 あきれるほど穏やかな会話が続いていく。
 ディアッカは席に座るのも忘れてその光景に見入ってしまった。
 イザークがアスランの隣に座るなんて天地がひっくり返ってもありえないと思っていたのに、それだけじゃなく、普通に会話してるって・・・・。『きさま』じゃなく、『アスラン』なんて呼ぶのはだいたい何ヶ月ぶりなんだ?
「ディアッカ?」
 先に席についていたニコルがディアッカを促す。その言葉に我に返ったディアッカは「ああ」と言って席に着いた。
 ぽかん、という形容そのままにディアッカは手にしたパンを千切るのも忘れてもったままイザークとアスランを見ている。その視線の先で相変わらずイザークとアスランは至極ふつーの会話を交わし続けている。
「イザークは何食べてるんだ?」
「Bランチだ。なかなかいけるぞ」
 イザークの答えは気味が悪いほど穏やかだ。
「どうしたんですか、ディアッカ?」
 人一倍そういうことに敏感なニコルはまるで気づいていないようで、ディアッカはそれも不思議に思う。
「ニコル、おまえさ、なんとも思わないの?」
 小声でニコルに聞くディアッカをラスティが横目で眺めている。
「何がです?」
 しれっとしてニコルは言う。
「え、いや、何がって・・・」
 言ったままディアッカは仕方なくパンを頬張った。その視線だけはじっとイザークとアスランに張り付いたまま・・・。
「ディアッカ、今夜お前たちの部屋に行っていいか?」
 アスランが言った。
「オレたちの?」
「ああ、イザークに『将棋』というのを教わろうと思って」
「は? アスラン何言ってんだよ? イザークに教わるって・・・おい、お前頭大丈夫か?」
 まじめな顔をしてアスランを見るディアッカについにラスティが吹き出した。
「ぷっ・・・くくっ」
「ラスティ!」
 それをたしなめるニコル。
「だって、おもしれーんだもん」
「は?」
 あっけに取られるディアッカ。それを見るとイザークが席を立った。
「もう終わりにさせてもらうぞ、こんな茶番」
「あ、イザーク!」
 慌ててニコルが立ち上がる。
「指揮官が自分から笑ってるんじゃ、続ける意味もないだろうな」
 言ってアスランはおもむろにコーヒーを飲む。
「え、おい、何だよ?!」
 一人だけ訳の分らないディアッカは取り残されている。
「ああー。わかったよ、はい、もう終わり! ディアッカの驚いた顔見られたから上出来ってことね」
「オレ?」
 まだ事情が飲み込めないディアッカの隣に、ニコルに引っ張られて戻されたイザークが座る。
「ああ。お前をだますためにラスティが仕組んだ茶番だ。くだらんことに俺まで巻き込まれたぞ」
 文句たらたらなイザークにラスティは満足そうに笑いながら言う。
「だって、イザークじゃんけんで負けたんだから仕方ないだろ。それにディアッカを驚かすにはイザークが仕掛けるのが一番効果あるもんな」
「まぁ、確かにアスランや僕が凝った芝居するよりも、イザークがするほうが数倍効果あるでしょうね」
 ラスティを引き継いだニコルも冷静に分析している。
「・・・ってなんだよ、それ?」
 まだ事情が飲み込めないディアッカにアスランがヒントを与える。
「ディアッカ、今日、何の日か知ってるか?」
「今日?・・・って4月1日だったよな・・・・って、あ?」
 ようやく思い当たった様子のディアッカにラスティはニヤニヤしながらピースサインをだしてくる。
「ハッピー、エイプリルフール!!」
「・・・ぐずぐずしてるからカモにされるんだ」
 イザークの言葉は容赦ない。
「だからって、何で俺まで・・・・」
 主役の相方を演じたアスランはイザークほどではないが気に入らない様子で、
「僕はじゃんけんで勝ったので、貴方を呼び出す役でした」
 脚本兼監督だとイザークの怒りを買いそうだから、とニコルはこともなげに毒を吐き・・・。
「どうだ? なかなか新鮮だったろ?」
 今回の総指揮のラスティから感想を求められた。
 ふてくされたイザークの顔と、他の3人の顔をぐるりと眺めながら、まんまとしてやられた、とディアッカは笑いながら答えた。
「ああ。イザークが普通すぎて、変な夢でも見てるのかと思った」
「なんだとっ? お前は俺がいつもは普通じゃないと言うのか?」
 その言葉に過敏の反応したイザークは、すでにいつもの調子を取り戻して怒鳴りつける。
「そーは言ってないけど」
 途端にいつもの痴話げんかが始まり、周りの3人はやれやれと肩をすくめるのだった。

 ある穏やかな春の一日の出来事--------------------。



2005/4/2





4/1には間に合わず。
ラスティ初書き・・・。
キャラがわからん・・・。