Under the Desk




 MSのパイロットは敵を討つことはもちろん、その整備、開発のためのデータのフィードバックなど戦闘外での 仕事も多い。
 ガモフのMSのデッキではパイロットがメカニックと顔をつき合わせて整備をしている。そこにはイザークにニコル、 ディアッカの姿があった。
人には得手不得手があるが、イザークは戦闘においては無敵な強さを誇るが、その後の処理においては 手間取ることも多かった。
 イザークとは対照的にニコルは担当メカニックとの人間関係は良好でいつも作業はスムーズだった。
 今日も穏やかながら的確な指示で次々と作業を終えていく。
 その脇ではイザークがメカニックと話ているが、その表情にはやや苛立ちの色が見える。いつものことだが、彼は表情が わかりやすいくらい表に出てしまう。メカニックの理解の悪さに腹を立てているのは明らかだった。
 ありゃ、あと3分で切れるな。
 自分の作業を進めながら、横目で見ていたディアッカは確信した。
「悪い、ちょっとここ頼むわ。デュエルのデータもらってくる」
 担当者に伝えるとディアッカはイザークに歩み寄った。
「イザーク、ちょっといいか?デュエルのデータでフォローしたいとこがあんだけど」
 言ってディアッカはイザークを引っ張っていく。抵抗しない様子からしてイザークも状況にうんざりしていたらしい。
 それはメカニックも同様だったらしく、その姿を見送ると止めていた手を動かして作業に戻っていった。
 イザークをデータルームに引っ張り込みながらディアッカはやれやれとため息をついた。
 データルームはデッキの一角にあり、データ編集に必要なコンピュータ類が備えられている。上部はガラス張りで 整備の様子をみながら作業をすることが可能になっていた。
「さっきのMAやったときの背後の状況フォローとかってある?」
 イザークは慣れた様子でデュエルの戦闘記録を呼び出している。それをみながらディアッカも、必要なポイントを 次々とピックアップする。
 イザークは無言のままだ。
「もうちょっとうまくやれよな」
「お前には関係ない」
「おおありだね。お前の作業が遅くなると部屋に戻るの遅くなるじゃん」
 外から見ればパイロットが二人、てきぱきとデータ処理をこなしているように見える。
 実際、イザークのキーボード操作は相当な速さだったし、ディアッカのデータを拾う目の動きも、イザークのテンポに 遅れることなく打ち込みをするキーストロークもコーディネーターの中でもかなり速い方だった。
 ただそこで交わされている会話は作業の内容とはかけ離れている。
「お前が遅くなったら、オレやだし」
「そんなに遅くなってない」
 強がりで言い返すイザークの目の前で、作業を終えたニコルが「お先に」と会釈をして引き上げていった。
「ほら。ニコルはもう終わったぜ。オレらもとっとと仕上げようぜ」
「一緒にするな。先に帰れ」
「早く帰って昨日の続きしよーぜ」
 言われたイザークは一瞬目を見開いた。すぐに元に戻ったが、脳裏に浮かんだのは夕べのディアッカとの激しいまでの 求め合い。一瞬で身体の奥の熱がよみがえりそうになり、イザークは軽く首を振る。
  それを見逃さなかったディアッカはくすりと口元で笑った。
 会話の間も作業はどんどん進んでいる。一通りのデータを揃え終え、イザークがデッキに戻ろうとしたときだった。
 データを収めたメディアがディアッカの手元を滑り落ち、イザークの足元に転がった。
 仕方なく拾おうとしたイザークは背後から脚をかけられてバランスを崩し、床に座り込んだ。
「ディアッカっ!」
 怒鳴りながら見上げるイザーク。
 そのイザークを心配して覗き込むような姿勢をとりながら、ディアッカはイザークの唇を奪い取る。深く唇を 重ねながら、舌を絡めて吸い上げる。
「…ばかっ…見え…」
 イザークは抗議するが、ディアッカは相手にしない。
「デスクにかくれて見えねーよ」
 ねっとりと唾液を滴らせながら、瞳を閉じたイザークもディアッカの舌を求めてきた。
 より深く、奥に。潜む熱を求めて。柔らかなそれはそのままの温度で相手にからみつく。
 ふわっと力が抜けそうになったイザークの身体をすんでのところで支えて、ディアッカはイザークから離れた。
 二人をつなぐ透明な糸がふっと切れる。
「続きは後でな」
 そういうとディアッカは何事もなかったように、イザークを残しデータルームを出て行った。
 取り残されたイザークは口元をぬぐい、ゆっくりと立ち上がった。
 デッキではイザークが戻るのを待っているメカニックがこちらを振り返っている。
 イザークはそこに残された熱を確かめるように自分の唇に細い指をあてた。ディアッカのキスはいつも突然で熱っぽい。
 まるで自分ひとりでは下がってしまうイザークの体温に熱を吹き込むように。だからイザークはディアッカの
キスが好きだった。
 それをまた確認し、一瞬瞳を閉じると、イザークは元通りの表情を取り戻しデュエルの元へと歩いていった。





END



2004/12/2







あとがき


お題に参加することを決めてから初めて書いた作品。
人目を盗んで職場でのキスってのはオフィスラブ(死語)の基本かなーと思って書いてみました。
きっとこの後のイザークはご機嫌で、作業もスムーズだったんでしょう(笑)
書くたびにどうしても振りが長過ぎになってしまう自分に気づいて落ちこみます。
まだまだ修行が足りません……