「・・・銃を向けずに話をしよう、・・・イザーク」
 懐かしい、優しい声がイザークに告げた。それへの答えを待たずにディアッカはラダーを使い地上へと降りていく。
 イザークはためらった。
 MS越しに、知らなかったから銃を向けられたのだ、自分は。
 それがディアッカの乗っている機体だとしって、そして、今度は降りて直接に話をするだと? 
 銃なんて向けられるはずはなかった、ディアッカになんて。けれどそれは許されない。自分はZAFTの軍人だから。
 そしてディアッカがそれに敵対するのなら、撃たなければならない、それは義務であり、当然のことだった。
 隊長に裏切り者は撃つと言ったのはつい数日前のことだ。
 けれど・・・。
 あとを追って地上に降りながら、イザークは銃を持つ手が震えるのを感じた。それをごまかすように銃口をディアッカに向ける。
「銃を向けずに、など、敵のそんな言葉を信じるほど、俺は甘くない!」
 精一杯軍人らしく、エリートらしく、表向きのイザーク・ジュールの評価のとおりに冷静に言い放った・・・・・・つもりだった。
 けれど、それはきっと見破られていたのだろう。
 目の前のディアッカは、なんともいえない表情でつぶやいた。
「・・・俺は、お前の・・・『敵』か?」
 否定したい言葉をぐっと飲み込んでイザークは目を閉じた。
 違う、ディアッカは敵じゃない。でも、お前はストライクと共に現れたじゃないかっ。
「・・・敵となったのは貴様のほうだろうがっ」
 俺はずっとかわらないのに、死んだと思ったらいきなり現れて、敵と共に!
 けれど、ディアッカは淡々と言った。
「オレは、おまえの敵になった覚えはねぇよ」
「ふざけるなっ!貴様も裏切り者だ!!」
 泣き喚くように言ったイザークの言葉をディアッカは悲しげな表情をして聞いていた。
「そうか・・・そうだな、オレはお前を裏切ったのかもしれないな・・・」
 否定して欲しかったのに、ディアッカに。
 そんなことはない、と。けれど期待した言葉は返ってこなかった。
 それに打ちのめされる思いがしてイザークは溢れる涙を止められずにぎゅっと瞼をとじてそれを抑えようとした。
 すると。
 その一瞬を見逃さずに、ディアッカの銃がイザークの構えた銃身を狂いなく撃ち飛ばした。
 それは大きくイザークの手を離れ、ふわりと宙を舞うと、地上に落ちて大きく弾んだ。
 イザークはディアッカを撃てなかった。それを示すように地上に落ちた銃は暴発することがなかった。
 彼がセーフティロックすらはずしていなかったからだ。
 それに気づいたイザークは慌てるように落ちた銃を取りに走ろうとする。しかし、それは走り寄ったディアッカに腕を掴まれて邪魔された。
 そしてそのまま彼の腕の中に抱き寄せられる。
「は、離せッ!」
「ごめん、イザーク」
「やめろっ、ディアッカ!!」
 抱きしめる腕の力はまったくゆるめずに、けれど優しいトーンでディアッカは話す。
「オレはお前を裏切ったよ。ずっとそばにいるって、お前を守るって言ったのに、それが出来なくて・・・ごめん」
「・・・なんで、帰ってこなかったんだ・・・俺はお前が・・・死んだと、思って・・・」
 空いた両手で拳を握り、ディアッカの胸を叩く。
「うん、ごめん。本当は捕虜になってたんだけど。連絡とか出来なくて・・・だけど、オレちゃんと生きてるからさ」
 イザークが逃げないとわかって腕を解くと、ディアッカはヘルメットをはずした。ふわり、とひんやりとした空気が肌に触れる。次いでイザークのものもはずしてやる。さらさらと銀の髪が宙に舞った。
「なんで戻ってこないんだ、バスターがあるならできるだろっ、すぐにだって!」
 言うとディアッカは見たこともない厳しい顔をした。
「・・・ごめん。今は理由は言えない。でも絶対、この戦い終わったら、どんな手をつかっても絶対プラントに帰るから。お前のとこに戻るから」
 イザークが信じているZAFT、それが何をしようとしているのか、ディアッカは知ってしまった。たとえどんな理由で正当化しても、許されないことを。きっと、聡明なイザークが知れば彼の中に迷いが生じるだろう。軍のエリートとして今でもたった一人あり続ける彼には、それはきっと重い事実だ。
 戦いの中では一瞬の迷いは死を意味する。そんな重荷を彼に負わせたくはない。
 だから・・・。
「今は言えないけど、オレはこの戦争を終わらせるために戦ってる。それはイザークと同じことだって信じてる。同じ目的のために戦ってるんだって・・・」
「ディアッカ・・・」
 見上げてくるイザークの瞳にさっきまでの怒りの色はなかった。
 自分の知らない間に、ディアッカは何かを知ったのだ。そして彼が考えて自ら行動している。
 周りからいい加減だ、と思われていたディアッカの本当の姿をイザークは知っていた。
 誰よりも、本当はきちんと考えているんだということを。それはいつも自分を大切に思うからそう行動していたということも。
「だから・・・、生きててくれ。オレに約束を守らせるために、絶対に生き延びてくれ」
「誰に向かって言ってる・・・」
 まっすぐに射抜くような視線をディアッカに向けてイザークは言った。
「俺を誰だと思ってる。クルーゼ隊の、イザーク・ジュールだぞ」
 笑うイザークの顔には、涙の跡があって、ディアッカの心は少しだけ痛んだ。オレが泣かせてしまったんだ、と。
「ああ、そうだな。伊達に赤は着てないんだったな」
 そして、抱き寄せるとそっと口付けを交わした。
 次に会うのはいつだろう。この体を抱きしめられるのはいつなんだろう。
 お互いにそう思いながら、言葉には出さずに、ただ熱を、想いを交わすためだけにぎゅっと抱きしめた。
 やがて、無情に時間はやってきて、お互いのコクピットに乗り込んだ。

 この後、二人はしばらくの間、別々の道を歩くことになる。

 だがそれは二人の人生においてはほんの少しの別離になるということを本人たちが知るのは、まだずっと先の未来--------。




END




2005/2/12







あとがき

突発的に書きました。
連載とかお待たせしてるのとか抱えてるのに。
SEEDの文庫を片付けていて5巻を読んでいたのがいけなかったんです・・・。
拍手のSSにするつもりが長くなったので、表にUPします。
パラレルっていうか、捏造はなはだしいってやつですねー(笑)
そしてシリアスのつもりが甘いし、イザ側から書いてるつもりが
どこかいっちゃったし(苦笑)