At your side
「覚えてるか、ディアッカ?」
 イザークはホテルのロビーでディアッカを振り返った。
 アスランの護衛という名目で呼び出された二人は、つかの間の再会に3人でニコルたちの墓参りに行き、ホテルのレストランで食事をしてから、アスランと別れて車を待っていた。
「何を?」
「あの場所だ」
 時間はすでに夜10時過ぎ。今夜はこのままプラントで過ごし、明日の朝一番で前線に戻るということを連絡してあったから、しばらくは時間があることになる。
 言われたディアッカはすぐにぴんと来た。
「あぁ、覚えてるよ」
 その返答にうなずくとイザークは車のキーをディアッカに預ける。
「行かないか、あそこへ」
 目線で物語る。イザークは答えを待たずにシートへと座る。ディアッカも必要以上に語らずにスイッチを入れるとあちこちをいじり、 て車は夜の街へと滑り出した。


 3年前、まだアカデミーにいたころだった。
 気詰まりしそうなアカデミー生活のなかで、つかの間、デートをした夜。
 二人でした約束。
 そのことをイザークは言ったのだった。
 そしてディアッカもそれを理解して、その場所へ車は向かっている。
 車内は無言。二人に会話はいらなかった。

「着いたぜ」
 見晴台に車を止めて、ディアッカは隣を向いた。
 イザークはだまって開けた窓の外を見ている。
「イザーク?」
「変わらないな、この景色は」
 外に出る様子がないので、ディアッカはシートをぐい、と下げた。そのまま上を向いて寝転がる。暗闇に揺れて光る銀の髪に、そっと手を伸ばす。
 あのときのことを思いだしてディアッカはその手を止めた。それに気づいてイザークは隣の席を振り返る。
「ディアッカ? どうしたんだ」
 振り向いた横顔に影が差して、青い瞳を一瞬見失う。
「いや、外、出ないか」
 言ってシートを起こすとディアッカは返事を待たずにドアを開け、車を降りた。
 見晴台から広がる景色は3年間と変わらずにカラフルな光がはじけていた。手すりにもたれかかってディアッカはイザークを振り返る。そのイザークは車から降りたところだった。
「あれから、3年か・・・」
 ディアッカはつぶやいた。
 イザークもその間の出来事をいろいろと思い返している。長いようで短い3年という月日。
 けれど、そこにはあまりにもいろいろな出来事がありすぎて、何十年も前のようにさえ思える。友人の死、友との別れ、自軍への不信、母親との決別・・・。ディアッカも同じことを考えているのだろうか、と横を向くと自分のことを見ている紫の瞳と目が合った。
「っなんだ」
「んー、景色は変わらないけどさ。オレらはだいぶ変わったかなと思って」
 言いながらディアッカは景色に向き直る。その隣に並びながら、イザークは聞いた。
「そうか?」
「だって、お前は隊長、オレは副官だろ? だいぶ差がついたよな」
 自嘲交じりにディアッカが言うと、イザークはいつもと変わらないようすで答えた。
「服の色など、たいした問題じゃない」
「そりゃー、お前はそうかもしれないけどさ。オレにとっちゃ、けっこー重要・・・」
「お前が俺の隣にいることには変わりないだろうが」
 さりげなく、胸を突くセリフ。
 心臓を一突きするには十分な。
 息を呑んで隣を見ると、いつもとかわらない美しく整った恋人の横顔があった。こちらを見ようとはしない様子にディアッカはやられた、と負けを認める。
「それでいいの?お前は」
 すると、遠くの光を眺めたまま、イザークは言葉をつむぐ。
「できるなら、お前と同じように歩んでいくのが理想だとは思う。だが、お前が隊長になったら、同じ隊にはいられないだろう。
 だから、・・・本当は、お前が副官になって、よかったと思っている・・・・・・」
 思いがけない告白。
 確かめたことはなかったけれど、そうであってほしいと思っていた彼の考えをはっきりと告げられた。
 ディアッカの頬は急に緩む。
「じゃ、あのときの約束はまだ有効なんだ?」
「当たり前だ。なかったことにした覚えはない」
 言ってディアッカを睨みつける。その瞳は3年前より少しだけ落ち着きを身につけた色が宿っている。
「確かに言われてないな」
 笑いながら抱きしめる。彼の言葉が嬉しくて。
 自分が気にしていた問題すら、なんのためらいもなく飛び越して自分をそちら側に引き寄せる存在に。
「・・・そうだな。オレはお前を守るんだもんな。そばにいなくちゃな」
 蒼い瞳を覗き込む。
「ディアッカが、・・・守れ。お前じゃなきゃ・・・だめだ」
 言葉が消えると同時に、ゆっくりと瞼が下りていく。その奥に、紫の瞳だけを映したまま。
 その白い頬にかかった銀糸を指で梳き絡めながら、ディアッカはそっと口付ける。
 淡い熱が伝わってきて、腕が背中を抱き寄せる。
 3年前は漠然としていた、一緒にいようという言葉。
 でも、いまはあのときよりはもっとずっとわかった気がする。離れていたときにわかったこともたくさんある。近くにいて気づいたことも、思い知らされたことも、数えたらきりがないほど。それも全部、彼がいるから、意味のあること。
「もう一度言うよ。イザーク・・・」
 ディアッカの言葉をイザークの唇が強引にふさいだ。
 目を見開くディアッカにイザークはその唇を離しながら睨むように見つめると、小さく笑いながらディアッカに止めをさした。
「ずっと一緒にいよう、ディアッカ」
 それに対するディアッカの返事は3年前のイザークと同じ。
 柔らかで優しく、甘い蜜のような口付けだった。




END 
  

2004/12/31





こそっと、あとがき

ええっと、運命11話のあとになります。
うちのサイト的には「Promise」からつながる話になります。
この話を書きたいがために、Promiseを書いたようなものです、実は。
Promiseを書いてる途中で11話をみたのがいけなかったのですが。
おかげでこちらはやっつけ気味。
もしかしたら、いつか書き直すかもしれません。
しかし、このときのイザークの服装があれだと思うと、
複雑な気分です・・・(苦笑)。