ピリリリリ。
ディアッカの部屋のモニターが鳴った。
「はい?」
サウンド・オンリーにして応えると向こうからは不満げな声。
「顔くらいだして答えたらどうなんだ?」
「イザーク?」
慌てて画面を切り替える。モニターの中には隊長服の上官の姿。
「手が空いたら部屋に来い」
「別に、今でも空いてるけど」
答えるディアッカにイザークは表情一つ替えずに命じる。
「ならとっとと来い」
それきり一方的に通信は切れた。それに気分を害するわけもなく、ディアッカは肩をすくめると軍服の上着を取り上げて羽織り、無重力の床を蹴って部屋を後にした。
隊長室の前に来ると、ディアッカの目の前でドアは突然開いた。
「あ・・・」
あっけに取られるディアッカの前でイザークは不機嫌というわけでもなく立っている。
「入れ」
「あ、あぁ」
部屋に呼んだイザークの意図を測りかねて躊躇しながらディアッカは隊長の私室に入る。
「おじゃまします」
らしくもなく断るディアッカにイザークは苦笑した。
「なに、改まってるんだ?」
「いや、イザークが呼び出すなんてあんまりないじゃん」
どちらかというとディアッカが押しかけるのが常で。だからこそ驚いたのだが。呼び出した本人は別段気にしているふうでもなかった。
「まぁ座れ」
言われてディアッカは隊長室にのみ置かれているソファに腰を下ろす。
「どうしたわけ?」
未だにイザークの呼び出した真意を測りかねて、問いかける。訊かれた当人は何やらクローゼットの中をあさっていたが、お目当てのものを見つけたらしく何かを手にして立ち上がった。
「少し早いとは思うが、時間があるうちにと思ってな」
その手にあるのはワインのボトル。
「は?」
「お前の誕生日。明日だろ?」
言って微笑むイザークの顔はすっかり隊長のそれではなくて。ディアッカはどきりとする心臓を軍服の上からそっと抑えた。
「それ、わざわざ持ってきたの?」
遠目にもわかる、名の知れた高級ワイン。
「ああ。その頃プラントにはいないからと思って持ってきた」
それがクローゼットから出てくるあたりがイザークらしくて笑ってしまう。とりあえず持ってくるのは持ってきたが、乗艦したとたんに忙しくてすっかり忘れていたのだろう。着替えやらの荷物と一緒のままに。
「すごいサービスじゃん」
立ち上がり、イザークの傍らに歩み寄りながらディアッカは嬉しそうに目を細めて言う。
正直、今年の誕生日は宇宙だからと、イザークからのお祝いなんてあきらめていたのだ。
それなのに。
隊長ともなれば宇宙へ出る前の仕事量は半端じゃなく忙しいといつも文句を言っている人が、ちゃんと自分の誕生日を宇宙で迎えることに気がついて、ワインなんかを用意してくれてるなんて。
「これしか用意してないぞ」
ボトルを突き出しながら言うイザークを、受け取ったボトルをすぐさま脇のカウンターにおいて、ディアッカは抱き寄せる。
「イザークがいれば十分だよ」
「俺は酒肴じゃないぞ」
「知ってるけど、オレの大好きなものだから」
言いながら顔を近づけると、長いまつげが伏せられる。そっと唇を重ねると緩くその腕がまわされた。
「・・・誕生日おめでとう」
柔らかく笑うイザークを思い切り抱きしめながら、ディアッカはそっと耳元でささやいた。
「ありがと・・・」
こうしていつも二人で一緒にいられることを、そっと感謝しながら。
イザークの誕生日もまたこうして二人で迎えたいと祈りながら。
少しだけ「戦争」という現実に背を向けて。
二人は甘い口付けに酔うように抱き合った--------。
END
2005/3/26
あとがき。
リハビリ中、第二弾。
ディアッカのお誕生日もの、第二弾(笑)。
長文病にならないように気をつけていたら、
なんかなーという中身薄―っな作品に・・・(汗
とりあえず、二人でシアワセにね、と思いながら。
Happy Birthday Dearka!