「小指、痛い?」
 深爪した右手を掬い上げながら聞く。
「いや・・・平気だ」
 ちょっとだけ間がある回答。イザークってば本当に素直だな。
「じゃぁおまじないな」
 言うなりオレはその指先を口に含む。
「なっ・・・!」
 慌てて手を引こうとするイザークの顔は真っ赤で。それはオレの衝動に火をつけるには充分だった。
 腰に手を回して抱き寄せながら指をもっと深く吸う。
「やめ・・・」
「やめないよ」
 耳元でささやきながら、その唇にキスを落とす。
「・・・ぅん・・・」
 深く舌を絡ませ合うと、イザークの両腕がオレの体に回されて着ていたシャツを強く引いた。
「オレの体で試す?」
 閉じられた瞼に唇を寄せながらそっと聞く。
「な、にを・・・だ」
 途切れがちな息の合間に返す声は充分に艶を帯びている。
「爪が長くないかって・・・」
 オレにしがみついて爪を立てても平気かどうか、って。
「そんなこと、俺は、しない・・・」
 必死になって相手を傷つけるなんてイザークとしてはかなり不本意なんだろうけど。
「今朝、シャワー浴びたら背中がひりひりしたんだよね」
 夕べはけっこう激しかったから・・・。思いながらイザークを覗くとその顔は拗ねたようなふてくされたような。いじけたような。オレだけが知るかわいいイザークそのものだった。
「・・・知るかっ」
 クスクスと笑いながら甘い口付けを恋人へ贈る。
「知らないなら確かめてよ。ついでにキスで癒すくらいして欲しいけどな」
「キスなんかで癒えるわけないだろ」
 イザークに甘さなんて求めても無駄だとは知ってるけど。ほんと、このお姫さまは。自分は人一倍キスされることで癒されてるくせになー、と反論したいのをぐっと抑える。
「いいんだよ。本人の気持ちの問題だから」
 だからキスしてよ、と強請るようにその体を抱きしめる。
「・・・癒すためのキスなんかしないからな」
 それは彼なりのOKのサイン。素直になれないイザークは尤もらしい別の理由を探しているのだろう。
「いいよ。じゃぁそれで」
 言って改めてキスを降らせる。それに目を閉じて甘えながらイザークはつぶやいた。
「お前の爪、いつも痛くないな」
 それはオレがイザークを愛してるからだよ。
 そっと耳元でささやくと、イザークはもっと小さな声で言った。
「今度からお前が爪切ってくれ・・・」
 と。
 お願いが苦手なイザークがそんなことを言ったのにも、オレを傷つけないようにって気を遣ったのにも嬉しくて。
 オレはクシャクシャに笑いながら、「了解」と言ってその喉元に赤く花びらを刻みつけた。





END



2005/5/20



あとがき


ブログで書いてたら保存に失敗したので、
ワードに書き直した話。
書いてるうちに違う話になってきた・・・。
結末は意味不明だし・・・。
タイトルの意味は爪磨き。(マニキュアを塗る話じゃないですよ・笑)