自分の指がトリガーを引いて。
目の前が真っ赤に染まっていく。
敵だと思った兵士の顔からヘルメットが外れると、そこには見慣れた金色のクセ毛。
紫の瞳が苦しそうにゆがめられる。
「イザー・・・ク・・・」
敵だった。
敵だと思った。
なのになんでそこにお前がいるんだ!!
ガタガタと膝から崩れ落ちるイザークにその相手は手を差し伸べる。
「無事で、よかった・・・」
自分を撃った相手を気遣って、その上無理やりに笑顔を作り出して。
やめてくれ、そこまでしないでくれ。
俺はお前を撃ったんだ。
それなのに・・・!
「さすが、だな。急所、一撃・・・苦しまないで・・・済み、そう・・・」
最後まで聞き取れないほどに声が小さくなっていく。
「あ、あ、あ・・・」
頭が真っ白で何をしたらいいのか解らない。応急処置だって学んでいるはずなのに。体が動かない。
ただガタガタと震えがとまらないばかりで。
「ディアッカ!!」
ようやく出たのはその名前だけで。手を伸ばすこともできない。
「イザーク・・・お前は、死ぬな・・・よ」
そうして笑った顔が今までのどんな顔よりも優しくて。イザークの目からは涙が次々と溢れていく。
「やだ、いやだ。死ぬな、ディアッカ、俺をおいて死ぬな!!」
自分が撃っておきながら、無茶苦茶なことを言っている。けれど、そんなことはどうでもいいくらいに、イザークは必死に声に出す。
すると閉じられていた瞼がゆっくりと開けれて、その瞳がイザークを見据えた。
「愛・・・して・・・る、から・・・」
そうして、力なく腕が落ち、首が傾いた。
「う、うそだ、そんな、やだ。いやだ、ディアッカ? おい、起きろよ? ディアッカ!!」
それきりディアッカは動かない。
「うわぁあああ」
自分の叫び声でイザークは目を覚ました。
いつもの部屋。隣にはディアッカが眠っている。
たちの悪い夢だった。
よりによって自分がディアッカを撃ち殺すなんて。
体中が強張っていて汗でシャツが張り付いている。
ため息をつきながら、ゆっくりとベッドの上に起き上がって隣を見るとすやすやと寝息を立てている恋人の顔がある。
「夢でよかった・・・」
自分がディアッカに銃を向けたのは、先にも後にもただ一度、MIAになっていたディアッカとメンデルで再会したときだけだ。
なのに、それがこんな形で夢になるなんて。
小さくため息をつく。
夢であっても、そんなことに振り回されているなんて、情けないばかりだ。
ディアッカが起きなくて良かった、そう思って水でも飲もうと起きだすと、隣から声がした。
「んー。どした、イザぁ?」
起こしてもいないのに。それどころか起きて欲しくなかったのに。なんで勘のいい男なんだ、と違うため息がでる。
「なんでもない。喉が渇いただけだ」
そっけなくそう言うイザークのシャツの裾を寝ぼけ半分ながらに、しっかりと握っていた。
「怖い夢でも見た?」
自分も起き上がりながら聞いてくる。
だまっていると、後ろからそっと抱きしめられた。
「違う!喉が渇いたと言ってるだろ」
その手を振り切って、ベッドサイドのミニ冷蔵庫に手を伸ばす。
「ふぅん。じゃぁオレにも水くれる?」
そういうディアッカにボトルを投げながらイザークも自ら水分を補給する。
ボトルを冷蔵庫にしまい、イザークがベッドに腰掛けるとディアッカは微笑んで、その体を布団のなかに抱き寄せた。
「ハグして寝る?」
深く追求はしないけれど、イザークが夢にうなされて起きたことくらい、きっとお見通しだった。
「暑苦しいからいらん」
その言葉にずいぶんな言いようだなぁと笑いながら、ディアッカが次に提案したのは、腕枕だった。
「首が痛くなる」
その提案も却下しておきながら、イザークは顔を背ける。
「じゃぁ手つないで寝ようぜ」
食い下がるディアッカに軽く息をつきながら、イザークはディアッカを向くとあきれたように睨み付ける。
「いいから、おとなしく寝ろ」
「何がいいんだよ? オレが手をつないで寝たいって言ってるんだからさ」
「どうせ寝ている途中で離すんだから、そんなことするだけ無駄だろ」
つないだ手が離れるなんて、夢の内容に通じそうで、そんなことはご免だった。
けれどディアッカはこともなく言ってのける。
「大丈夫。朝までちゃんと握っててやるから」
何が大丈夫なのか、追求してやりたいところだったけれど、イザークの意地もこの状況ではあまり続かなかった。
「絶対だな?」
見上げる先で、紫の目は余裕の笑みをたたえている。
「うん。絶対。だから安心して寝なよ」
ディアッカはそういってイザークごとシーツに倒れ込むと、キスを一つ頬に落とす。
イザークの右手をしっかりと握りながら。
「オヤスミ」とささやいて。
そして目を閉じたイザークは思った。
こんな奴なら、きっと俺が殺しても死なないかもしれない。おとなしく殺されてる場合じゃない、とか言い出して、あれこれ自分の世話を焼くくらいしそうだな、と。
深く沈んでいた気持ちが、思いのほか軽くなったことに気がついて、イザークは握られた右手をぎゅっと一度だけ強く握り返した。
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2005/6/15
新作 Morning kiss の補完。
前の日の夜のお話。
前の日の夜のお話。