ミリオン スノウ
北風が強く吹いて白い雪が舞い上がる。
一面の白に埋もれるように振り向いたその存在は未だに慣れることのない特別の存在。
ステディな関係になってからだって、永遠を誓ってからだって、幾百の夜を過ごしてきたというのに。
それでもまだ。
その笑顔に鼓動が跳ね上がる自分がいる。
「イザーク」
ファーの付いたフードを深く被って寒そうにしているかと思えば、その顔は思い切りの笑顔だった。白い肌なのに頬だけが不思議な朱に染まってる。
「すごいな」
感嘆と感激と。
地球という惑星の力強さに圧倒されるだけの人間の小ささと。
この星を飛び出していった自分達のルーツへのほんの少しの誇らしさ。
「これがほんとのホワイトクリスマスだな」
もみの木の森も真っ白に染まっていて、隣に立って見上げると、真っ暗な空から無限の雪が降ってくる。
次から次へと終わることを知らない天からの贈り物。
北欧の大地は白と黒の二色だけで、音すら目の前の白い世界に吸い込まれているかのようだった。
「悪くないだろ、寒いときに寒い国も」
「凍えそうだ」
言った傍から白皙の鼻梁の上に雪が落ちる。マヌケな顔がおかしくて笑おうとしたら何故だか上手くいかなかった。
「ディアッカ?」
不思議そうな表情で覗き込まれて慌てて鼻を啜り上げるフリをして取り繕うと手首ごと握られてそれを遮られた。
「誤魔化せると思ってるのか」
「…ごめん」
「謝るより…どうしたんだか話せ」
「うん…」
どう言ったらいいのか。なんて伝えたらいいのか。洒落た言葉なんていくらだって知ってるはずなのに。白い雪に記憶さえ塗り替えられたみたいに上手く思いつかない。
「雪はさ、いくらたくさん降って積もってもいつかは溶けて消えちゃうけどさ」
バカみたいにたくさん、うんざりするほど降る雪だって春を過ぎて残っていることなんて出来ないけれど。
途切れた言葉の途中に自分を真っ直ぐに覗き込むブルーはどこまでも透き通って深い青。
「人の気持ちはいくら積もっても溶けることはないんだなって思って」
どうしてこの人なんだろうとか、なんで隣を選んだのかとか、たぶん答えは一生かけても見つからないのかもしれないと思うのに、答えが見つかるまでずっと傍にいることができるのだと思えば、それがすごく嬉しいと思ってしまう。
好きになればなるほど、愛してると言えば言うほど気持ちは雪よりも高く降り積もるのだと思い知らされる。
「溶けてたまるか!大洪水だぞ、勘弁しろ」
言いながら額を小突いてイザークが笑う。
それからふと一瞬黙り込んで果てのない、自分達の故郷がある空を見た。
「俺はいくら思ったって溶けることも溢れることもないぞ。なんたってお前に対するキャパは底なしだからな」
呼吸さえ忘れてしまうくらいのとびきりの笑顔を向けながらイザークが腕を伸ばす。触れた唇は冷たいはずなのに、じわじわと暖かいものが心に沁みてくるのがわかった。
だって凍りつくはずの涙が止まらないんだから。
「このバカ!」
怒鳴られてそれでも、手を握ってくるイザークが愛しいと思う。
みっともない泣き顔が凍ってぐしゃぐしゃになっても許してくれる人がいてよかったと思う。
たとえ。
百万の雪が降っても、百万回の春が来ても。
この想いは消えることないと信じられる。
聖なる夜に。二人だけの夜に。
白い雪に閉じ込められてもいいから――。
100万の雪の中で君に誓うよ。
「好きだよ」
2007.12.25.
コブク○のMillion Filmsを聴いてたらDYが書きたくなりましたー(笑)