「イザーク?」

 気遣うように声を抑えてディアッカはベッドの傍まで歩いてくる。緩む表情に気づいたディアッカは顔の横までやってきた。
「どうしたの、具合でも悪い?」
 覗きこむ顔は普段と変わらなかった。特別優しいわけでも、気を遣ってるわけでもなかったけれど。普通じゃなかったのは自分の方で。気がついたときにはその手を引いていた。

「ぉ、うわっっ、な、何っ?」

 そのまま、声を上げて、それでも体重のすべてが掛からないように手を突きながら倒れこんできた体をぎゅっと抱きしめた。もっと驚いたディアッカは、それでもちゃんと抱きしめてくれた。
「どしたの?」
 様子が変だとわかった途端に、声色が甘く、変化した。

 夢を見て寂しい、なんていえなかった。だからぎゅっと背中に回した腕に力を込める。それを受けて抱きしめてくる腕の力も強くなった。
 それでも、言葉が出ない自分が情けなくて。ただ、離したくない思いだけで自分よりたくましい温もりを抱きしめ続けるしかできなかった。


「かわいいな、イザーク」

 何も言わないのに、そんなことを言ってディアッカは小さく笑った。いつもならそんなこと言った途端になぐってやるようなセリフは、間違ったら泣いてしまいそうなイキオイで心に広がった寂しさを癒すには、悔しいけれどふさわしくて。自分の顔の横にある頬にそっとキスをした。

「イザーク?」

 そんなことをした自分の顔を見られたくなくて、また強くディアッカを抱きしめた。そうしたらディアッカはもそもそと体を毛布の下にもぐりこませてきて、やさしく耳元でささやいた。

「愛してるよ」

 なんで、コイツは一番欲しいものがわかるんだろう。そう思って体を押し上げてその顔を見ると、ただにっこりと笑っている顔があった。
 敵わない、と。コイツにはきっと一生見透かれていくんだ、と思い知らされる。自分がその逆をすることは絶対にないのだろうけれど・・・。
 そう思っていると、ディアッカの顔が近づいてきて、悪戯っぽく瞬いた紫の瞳が目蓋の下にそっと隠れて。
 温かいキスが唇にふってきた。

 夢を見るのは起きたときに「よかった」と思うためだと昔誰かに聞いた。
 いい夢だったときは「いい夢を見られて良かった」と。
 悪い夢だったときは「夢でよかった」と。


 ディアッカの腕の中。
 夢でよかった、そう思った。あれが夢で、コイツがいつも傍にいるのが現実で。
 それでよかったと、俺は思った。







2005/10/24



あとがき。

お題「朝の二人」です。
イザークのモノローグに挑戦→挫折。
甘くなりきれなかったのが・・・