腕 枕

「たまには、俺に腕枕させろ!」
 いつものように情事を終えてさぁ寝ようかというときになって、珍しく元気が残っていたイザークはそんなことを言い出した。
「はぁ?突然何言ってんの?」
 いつもは、シャワーを浴びて寝巻きを着るのも面倒くさがるくらいに眠い眠いと言って寝てしまうくせに。オレがそう思っているとイザークはベッドの上で胡坐をかいていたオレの首に腕を回すと無理やりに引きずり倒した。
「俺ばっかり腕枕されるのは平等じゃない。たまにはお前にしてやると言ってるんだ」
 ああ、何がどうなったんだか知らないが、気まぐれなイザークの負けず嫌いが今日はこんな方向で発揮されるらしい。だいたいこらえ性のないイザークが10分以上腕枕なんでしてられるわけないだろうが。
「・・・それって朝までしてるってこと?」
 念のために聞いてみると何を当たり前のことを言うんだ、という顔をしてイザークはオレの頭の下に腕を差し入れてきた。
「いつもお前はそうやってるんだし、枕なんだからそれがなければ寝られないだろうが」
 イザークの腕は細いが引き締まっていて筋肉質だ。二の腕はそれなりに筋肉がついているから、腕枕として無理というほどの細さではないが、慣れないオレとしてはやはり寝心地がいいものじゃない。何より、痺れたと言い出されるのが心配で落ち着いてなんて寝てられないって。だけど、ここで無理だなんて言ったら、オレの首に縄でもつけて無理やりに腕に縛り付けられそうだからそんなことは言えるわけない。
「ほんとにいいわけ? 途中で痺れたなんて言い出さないでくれよ。もちろん動いたりするわけないよな?枕なんだし」
 オレの言葉にぐぐぐ、と眉を寄せてイザークは黙り込んだ。どうやら気の短さには自覚があるらしい。けれど、負けず嫌いの性格からして今さら言った言葉を引っ込めたらしないだろうけど。
「当たり前だ。俺は言ったことはやるんだ。お前だって知ってるだろ、何言ってんだ」
 ふん、と得意のクセで締めくくったが、頭の下で腕の位置をそわそわと微調整している。本当は、乗せる方が寝やすい場所を選べるもんだと思うんだけどね・・・。そんなことにはまるで気の回らない・・・というか思いつくはずもないイザークがかわいいのだ、オレは。ほんとどうしようもないと思うけど。
「わかったよ。じゃぁ今日はイザークの腕枕で寝る」
 そう言ってオレは横を向いてイザークの体を片腕だけで抱き締める。腕枕されると片腕の自由がきかなくなるのが難点だ、と思いながら。
「お前、大人しく腕枕されてろ」
 抱きしめたことに不満を言うイザークをキスで封じてオレは笑う。
「ちゃんとされてるじゃん。いつもイザークだってしてることだろ」
 イザークが痺れないように調整した位置がずれてしまったことを気にしているのをわかっていながら。
「・・・っ」
 赤い顔をして息を詰めたイザークの顔が面白くて、オレは笑いを堪えきれずに、そっと頭を元の位置にもどしてやる。
「さぁ、寝ようぜ」
 言って灯りのスイッチを切った。
「おやすみ、イザーク」
「・・・おやすみ」
 その声はなんだか不安そうで、オレは暗闇の中で吹き出してしまうのを堪えるのに必死だった。

 そしてしばらくして、イザークの寝息が熟睡に変わったのを確認するとオレはそっと頭をあげて、近くに避けた枕をイザークの伸びた腕のない壁際に押し付けて置いた。
「これで朝起きて、痺れたからって八つ当たりされたらたまんないもんなー」
 小さくつぶやいてそっとその髪を指に絡めてキスをする。
「まったくわがままなお姫さまだから・・・」
 その寝顔がたまらなく愛しいと思いながら、オレは壁際の小さくなった枕に頭を落として目を瞑った。

「おい、起きろディアッカ!」
 すぐ横でイザークの得意げな声がしてオレは眠たそうに目を開ける。
「ちゃんと朝まで腕枕したぞ。べつに痺れてなんかないじゃないか」
 珍しく寝起きからご機嫌なのに驚きながらオレは、起き上がってイザークに言った。
「さすがイザークだな」
 そして髪の毛をぐしゃぐしゃと撫でながらおはようのキスをした。いつもならすぐに押し返されるキスにイザークは腕を回してくる。
「ご機嫌だな、イザ」
「そうか、別にいつもどおりだぞ」
 ニコニコと笑うイザークの顔がめちゃくちゃかわいくてオレはその体を抱きしめるとうっとりともう一度キスをする。
 本当はイザークの腕枕なんて20分もされてないんだけどね、とひそかに思いながら・・・。



END



2005/8/6



あとがき
マガジ○の腕枕を見て時事ネタ・・・。
甘い、甘いなーディアッカは(笑)。
そして二人のバカップルぶりもそうとう甘いですが・・・。